It is your sake if I am warm as you say.



  冷たい北風が、校舎の隙間を吹きぬけていく。

  どこへ向かうか行方も知らず、ただただ暴力的に。

  渡り廊下を歩く生徒の足を潜り抜け、服をはためかせ、プリントを奪って。

  窓ガラスにぶつかり、音を立て、木々を裸にする。

  そして

  そしてその風は君の柔らかな髪を撫で、

  体操服姿の君を僕に見せ付けるように、吹いた。

  (寒そうだな…)

  あれでは風邪をひいてしまわないだろうか。

  運動をした証の汗が、冬の鈍い太陽を跳ね返す。

  俺は暖かい教室の窓際の席で頬杖を突いて、外を見ている。

  (正確には君を、だけど)

 ねぇ、寒くないの?

  外はあんなに強く風が吹いているじゃないか。

  むしろ

  (むしろ、見てるこっちが寒くなりそうだ)

  冷たい風が肌を撫でていく想像。

  吹きぬける風に煽られる錯覚。

  ・・・案外、すっきりするかもしれない。

  俺って意外と面倒くさがり屋って思われてる。

  考え無しに行動しないって思われてる。

  誰が?

  実は意外と、行き当たりばったり。

  思い立ったが吉日生活。

  あぁ、吉日、って逆から読むと彼の名前だ。

  どうでもいい。

  何故だろう?

  暖かさで頭が働かない。

  嘘。

  「先生、気分が悪いので保健室へ行きます」

  答えは聞かない。

  俺がやるって決めた事はやる。

  それだけ。






  教室よりは冷えた廊下。

  それでも冷暖房完備。

  まったく無駄なところにお金を使う。

  まぁ、金持ち連中の寄付でやってるんだから文句はないが。


  どこだろう。あの、寒そうな彼は。

  まだ授業中だから、外だろうか。
  
  じゃぁ、下駄箱のところで待っていようか?

  真面目な君は怒るだろうか。

  廊下をふらふらと歩き、渡りを風に吹かれながらわたる。

  (やっぱり、寒いよ)

  あの汗はきっとすぐに冷やされるだろう。

  風邪をひかないといい。

  バカは風邪をひかないと言うけれど、彼は頭がいいのでひいてしまうだろう。

  それとも気合で治すだろうか?

  (なにを心配しているんだ…?)

  今更ながらに自問自答。
 
 どうしてこんなにも君に執着してる。




  そうこうしているうちに、チャイムが鳴り響く。

  (なんだ。あと少し待てばよかっただけ…)

  教室の熱に浮かされてたみたい。

  考え無しの行き当たりばったり。

  それでも、

  (どうしてか、君は見つけられる)


  可笑しいな。

  いつでも俺の頭の片隅では、無意識ってやつが勝手に演算しているようだ。

  君とのキョリ 君への最短ルート 視界に入る位置 回りの人の有無

  ちょうど下駄箱で靴を履き替えた君の元へ。

  独特な髪の切り方。

  その背中へ、体を寄せる。

  (やっぱり、冷たいや)

  でも。

  でも、正面に回って、抱きつけば。

  「っ、滝せんぱ

  「あぁ、暖かい。日吉の体って、暖かいね」

  戸惑ったような声。

  あぁ、やっと君に会えた。

  ガラス越しでなく、風にも邪魔されない。

  「暖かい、暖かい」

  ね、俺がずっと見てたの知ってる?

  あんなに寒そうな風の中にいたのに、なんでこんなに暖かいんだろう。

  「ちょ、っと待って下さい…人が来ます。離れて…」

  「ね、なんで日吉はこんなに暖かいのかな」

  「へ?」

  困った顔。

  怒られるかな。

  呆れたような小さなため息。

  ねぇ、日吉、この気持ちはなんて言うんだろうね?



  「…俺じゃなくて、滝先輩が暖かいんですよ」

  無愛想に、拗ねたような言葉。

  「うん。そーかも、しれないね…」

  でも、俺には日吉の方が暖かいような気がするよ。

  それに、俺が暖かいとしたらそれは日吉のせいだと思うよ。




















08.02.04 Hinagi Maki